(前編より続く)

ネッツへの移籍トレード記者会見時、キッドが掲げた目標は40勝と控え目でした。それでも場の雰囲気は些か冷ややかだったような記憶があります。それもそのはず、当時のネッツは26勝しか出来ない典型的ドアマットチームでした。ドラフト1位で入団したケニオン・マーティンを以ってしてもチームは浮上のきっかけさえ掴めないように見えたものです。



しかし、PGがマーブリーからキッドに変わるや否や、チームの全てが変わりました。ケニオン・マーティンはサンズでのマクダイスやマリオン同様にキッドのパスをアリウープで叩き込むフィニッシャーとして一気にリーグでの存在感をアップさせます。キース・ヴァンホーン、ケリー・キトルズといった若手に加えて新人のリチャード・ジェファーソン、そして今話題のジェイソン・コリンズといったメンバーを揃えた若手軍団はキッドの指揮下で一躍飛躍を遂げます。前シーズンの倍となる52勝を挙げたネッツはポストシーズンでもその勢い止まるところを知らず、ペイサーズを倒して'84年以来のカンファレンスセミファイナル進出、シャーロット・ホーネッツ(現ニューオリンズ・ペリカンズ)を倒してNBA加入以来初のカンファレンスファイナル進出、そしてセルティクスを倒して遂にファイナルへ辿り着いたのです。ファイナルでは当時精強を誇ったレイカーズにスウィープを許しましたが、キッド加入1年目に早くもファイナル進出という成果を挙げた時点で、ネッツのキッド獲得が大成功である事は誰の目にも明らかでした。

'02-'03シーズン前にはヴァンホーン等の選手と交換にムトンボを獲得してインサイド強化に賭けます。ムトンボは残念がら故障が多く期待した程の見返りはありませんでしたが、ネッツは49勝で東2位を堅持、プレーオフでも1stラウンドでバックスに4勝2敗とやや手こずるも、セルティクスとピストンズをスウィープで連破、2年連続ファイナルに到達してみせたのです。今度のファイナルの相手は既にビッグ3体制が確立していたスパーズでした。この難敵相手にネッツはアウェーの第2戦を87-85の接戦で奪う大健闘を見せるも、2勝4敗で惜しくも敗退したのであります。

この'03オフにFAになり、当のスパーズからオファーを受けたキッドでしたがこれを断り(この件がトニー・パーカーの向上心に繋がった事は言うまでもありません)、ネッツと再契約します。ネッツは更に奇跡の現役復帰を果たしたかに見えたアロンゾ・モーニングと契約しましたが、彼は12試合のみの出場に終わります。22勝20敗と出遅れたネッツはバイロン・スコットHCをシーズン半ばに解雇、ACのローレンス・フランクを抜擢します。この人事は大当たりし、ネッツは14連勝を飾ります。が、キッドの故障もあって47勝に終わったネッツは1stラウンドこそニックスを4タテするも、カンファレンスセミファイナルでピストンズの前に散ったのです。

'04-'05シーズン前にはケニオン・マーティンがナゲッツへ去り、キッド自身も膝のマイクロフラクチャー手術で出遅れます。そんな中でネッツはモーニングをラプターズへとトレード、代わりにラプターズからの移籍を望んでいたヴィンス・カーターを獲得。ジェファーソンとの新ビッグ3体制を構築しました。が、このシーズンは42勝止まりで1stラウンドでヒートに敗戦、翌シーズンもカンファレンスセミファイナルでヒートに敗戦。41勝止まりの'06-'07シーズンもカンファレンスセミファイナルでキャヴスに敗れました。

そして'07-'08シーズン半ば、ネッツは遂にキッド自身のトレードリクエストを叶え、ヴァンホーン(彼は引退していましたが、トレードの人数と金額合わせの為だけに現役復帰しました)やデヴィン・ハリス等との交換で古巣、マヴスへと向かったのです。サンズ時代の同僚ナッシュが率いていたマヴスはそのナッシュをFAでサンズへと去らせてしまっていたのです。しかし、チームは50勝したもののマヴスはホーネッツ(現ペリカンズ)に1stラウンドで、翌'08-'09シーズンはナゲッツにカンファレンスセミファイナルで敗退を喫します。
更に'09-'10シーズンも55勝しながら1stラウンドでスパーズに敗れたのです。55勝して1回戦からスパーズとかどんな罰ゲームだよ。



が、遂に収穫の時は訪れました。'10-'11シーズン、57勝まで勝ち星を伸ばしたマヴスは第3シードでポストシーズンに入りまずは1stラウンドでブレーザーズを振り切ると、次いでレイカーズを4タテで撃破。更に若きサンダーまでも4-1で圧倒。ここにキッド3度目、マヴス2度目のファイナル進出が実現したのです。その対戦相手がマヴスにとってはリヴェンジのかかる相手にしてスリーキングズ体制1年目のヒートだった事、そしてその結果がマヴスとキッドにとって初のリング獲得だった事は記憶に新しいと思います。

キッドはあと1シーズンマヴスに残ると、FA契約で今季まさかのニックス入り。流石に衰えは隠せなかったものの、ヴェテランらしい貢献でニックスの快進撃の一翼を担いました。そして遂に引退、となった訳です。まだ来季もやれるか、と言われれば多分やれるでしょう。まだ優勝してなければまだ現役続行もあったかも知れません。しかし、キッドはもう十分やり切ったのも事実でしょう。ヒルはとうとうリング無しのまま引退する事になりましたが・・・。



http://espn.go.com/new-york/nba/story/_/id/9378352/jason-kidd-hired-new-coach-brooklyn-nets

そして、これまた既報の通りですがキッドは早くも次の仕事が決まりました。彼はテレビ解説やACといった過程をすっとばし、いきなりNBAのHCに就任する事が決まったのです。ブルックリンへと移転した古巣、ネッツにて彼は仲の良いデロン・ウィリアムズと組んで新たなキャリアをスタートします。

ネッツもなかなか大胆な賭けに出たものです。ネッツは今やタックス支払い上等モードに突入し、プロコロフオーナーは優勝出来なければ毎年のように湯水の如く金を使いチームを改造する所存ですからね。HCだってこの1シーズンでエイヴリー・ジョンソンとカーリシモの2人がクビになっている訳ですからね。今すぐ結果を求められる、新人HCには厳しい職場環境です。本当はサンズみたいな、今すぐ性急な結果を求められる心配の無い環境の方が良かった気もするのですけどね。

果たしてキッドがネッツへトレードされてきたあの時のように、すぐさまチームわファイナルへ導く程の手腕を発揮出来るのか。それともあの時よりも早く、ネッツを去る事になってしまうのか。1人の偉大なオールスターPGの引退を惜しみつつ、期待の新人HCがどこまで鮮烈なデビューを飾れるかを楽しみにしましょう。ちょうど、彼やヒルがドラフトされた'94年のように。

※参考文献・・・Wikipedia



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