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悪夢。

その時、アンダーソンは天を仰ぎながら信じられない思いだった事でしょう。いつもは普通に決まっていたはずのフリースローが、なぜ今だけ・・・と。

'95年ファイナル。相手は昨シーズン覇者にして、ドレクスラー加入で生き返ったロケッツ。第6シードから這い上がったロケッツに対して若く才能溢れるマジックの有利が囁かれており、実際満員御礼のホームで迎えた第1戦はマジックが前半から圧倒的リードを奪います。これがレギュラーシーズンの一試合なら、このままゲーム終了、だったかも知れません。しかしここはファイナルの大舞台、しかも相手はプレーオフ経験豊富なロケッツだったのです。オラジュワンもドレクスラーもここまで既に2度のファイナルを経験していたのに対し、マジックはそもそもプレーオフ経験自体が2年目。その差が、後半に出てきました。



ロケッツはケニー・スミス(いまやESPNの解説でお馴染みですが)を筆頭とする3ポイント攻勢で点差を詰めにかかりました。セーフティーリードはみるみるうちに消え、4Q終盤。110-107とマジックリードの場面でしかもオフェンスという場面、ゆっくり時間をかけて放ったブライアン・ショーのロングシュートは外れたものの、ペニーがオフェンスリバウンドを奪うとバックコートへパス。3人で巧みにボールを回して時間を稼ぎ、残り10.5秒まで漕ぎ着けます。この時、最後にボールを持っていたのがニック・アンダーソンでした。実はロケッツがファウルゲームに行っていたためにグラントががら空きだったので、彼にパスを送ればとどめのダンクが決まっていた可能性もあったのですが・・・。

アンダーソンがフリースローラインに立ち、まず1本・・・外れました。まあ致し方無いでしょう、1本くらい。そう満員の観客も思っていたことでしょう。2本目が外れるまでは・・・。それでもアンダーソンは自らオフェンス・リバウンドを奪い、再度ファールをもらってフリースローラインに立ちました。が、真の悲劇は正にこのオフェンスリバウンドを奪ったからこそ訪れたとも言えるでしょう。

3本目、アンダーソンの顔からはもう緊張の色しか見えません。さっき2本連続で外した悪いイメージから脱せないまま放った3本目もリムを跳ねます。無理矢理笑顔を作って、何とか緊張をほぐそうとして放った4本目・・・またも外れです。リバウンドがロケッツに渡るのを見て思わずアンダーソンは天を仰ぎました。4本中1本でも決まってさえいれば4点差になり、ロケッツを突き放せるはずだったのです。そして、直後のロケッツのオフェンスでケニー・スミスが同点の3を叩き込み、試合は延長戦に突入してしまいました。

結局、ここが勝負の分け目でした。OT最後のプレーでオラジュワンにリバウンドティップインを決められて第1戦を落としてしまったマジックは、まるであの時のアンダーソンのFTのように4試合を続けて落としてしまいます。ホームコートアドヴァンテージを握っていたことが皮肉にも、ロケッツの地元ヒューストンでの胴上げを可能にしてしまったのです。屈辱のスウィープ負け。そしてブルズ戦でのヒーローは一転、ファイナル敗退の元凶となってしまったのです。

一部のファンからも「Nick the Brick」「Brick Anderson」(Brick=レンガ。レンガを投げる音とFTが外れる音が似ているというところから転じて、FT下手な選手を差す言葉になったそうです)などと揶揄されたアンダーソンにとって、精神的なダメージは「雨の日ばかりじゃないよ」という母の慰めの言葉だけでは免れられないものでした。それまで6〜7割台の確率で決めていたFTは'96-'97シーズンには.404まで下がります。そしてそのシーズンは、シャックがマジックを去ったシーズンでもありました。

'96プレーオフでもブルズとカンファレンスファイナルで対戦、今度はリヴェンジに燃えたジョーダンの前に完膚無きまでに叩きのめされ、マジックは3年連続のスウィープ敗退を喫します。そしてそのオフ、シャックはレイカーズへの移籍を決断したのです。この結果マジックはインサイドの核を失い、シャックとアンダーソン&スコットの内・外アタック戦術は当然のように崩壊しました。しかし、一方でこの移籍の裏にはシャックとアンダーソンとの不仲という話もあったようです。当時のESPNニュースではそのあたりをほのめかした表現がされていました。折角のジャパンゲームスもシャック抜きとなってしまった訳です。

ともあれ、マジックがイーストでの強豪だった時代はこれで一旦終わります。ジョーダン全盛時代ゆえにペニーがジョーダンの如くマジックを引っ張っていくという期待もされていましたし、実際'97プレーオフはペニーが爆発、もう少しでヒート相手にアップセットを起こせるところでした。しかし、'97-'98シーズンはそのペニーがシーズンを殆ど棒に振り、マジックの成績もそれに伴ってダウン。アンダーソンも平均6.5得点だのFT成功率.363だのという絶望的なスタッツの上に故障でダウン。最早このシーズンの希望は潰えたかに思われました。



アンダーソンが最後の輝きを見せたのは、意外にもこのタイミングでした。シャックもペニーもいないマジックに故障を治して戻ると、突如22.6得点+FT成功率.676と覚醒します。そう、あたかもシャックとペニーが加わる前のアンダーソンのように。シャックのいなくなったインサイドでアンダーソンはペイントエリア内でのスコアリングスキルを再度発揮、外からはロングシュートとオールラウンダー振りを久々に見せ付けました。このシーズン、レイカーズ相手にクラッチショットを沈めた時にシャックのしぐさを真似していたのが印象的でした。シャックへの当てつけ、そう見ていいでしょう。このアンダーソンの大活躍の結果、マジックは41勝41敗まで成績を戻し、プレーオフ出場こそ逃したものの'91-'92シーズン以来の負け越しを免れたのです。

翌'98-'99シーズン。ストライキならぬロックアウトで50試合に短縮されたこのシーズン、マジックはペニーの勧誘でアイザック・オースティンを迎えます。MIP受賞センターの獲得で何とかインサイドが改善されたマジックはこのシーズン、アームストロングのブレイクもあってアトランティック1位タイの好成績を収めますが、アームストロングの起用時間が増える=ペニーのSG起用だったため、アンダーソンの出番はまたも減少します。そしてプレーオフはといえば1stラウンドでシクサーズの前に敗退。

そのオフ、キャップオーヴァーにも拘らず勝てないチームに業を煮やしたオーナーの指令もあって、ホーレス・グラントとマゲッティー指名権のトレードからチームのリビルドが始まりました。10シーズンに渡って在籍し、それなりに上昇しているアンダーソンのサラリーはやはりカット対象とならざるを得ず、アンダーソンはこのオフ、タリク・アブドゥル・ワハド+1巡目指名権と交換でキングスへとトレードされてしまったのです。

キングスではジェイソン・ウィリアムズの学生時代からオフで交流があったこともあって期待されましたし、共に来日して、アンダーソンはキャリア2度目のジャパンゲームスを迎えました。が、アンダーソンのFG成功率は最早4割を超えることは無く、6割台まで復調していたはずのFTも再度4割台にダウン。シャックとの確執はプレーオフ中に一応解決を見たもののキングスでの2シーズン目はほぼ出番も無く、翌'01-'02シーズンにはグリズリーズへ。しかし、最早3割をも割り込むFG成功率の選手にもう出場の機会は望めませんでした。もう一度オーランドでキャリアを終えたいという願いも空しく、アンダーソンはそっとユニフォームを脱いだのです。

現在アンダーソンはコーチングや解説者といった仕事こそしていませんが、マジックに雇われて地域コミュニティー関連の仕事を行っています。この仕事、昨季シーズン序盤に引退したばかりのチャールズ・ボー・アウトローもやってます。要するにマジックファンのお気に入り選手の仕事なんですかね?

そう、あれほど辛い出来事があったにもかかわらず、当時からのマジックファンは今でもアンダーソンを「the Magic Man」と呼ぶぐらいに愛しています。過去の選手への人気投票ではシャック、ペニーといったところを押さえて1位ですし、そもそもマジックでの通算得点第1位はシャックでもペニーでもT-MACでもなく、依然としてニック・アンダーソンなのです。

今年はマジックの球団設立20周年のため、各種セレモニーでアンダーソンの出番は多そうです。あの時優勝のチャンスは彼の手からすり抜けてしまいましたが、あの頃からのファンの記憶から彼の勇姿が消える事は無いでしょう。なお、マジックという球団は歴史の浅さもあって、永久欠番は今のところ6番だけです。この6番というのは特定の選手ではなく、コートに立っている5人だけでなく、ファンの皆が6thマンだという意味合いなのですが(但し、ユーイング在籍時の'01-'02シーズンはユーイングが付けていました)、将来永久欠番選手が選ばれるとすれば、ペニー、シャック、そしてこのアンダーソンの25番が是非選ばれて欲しいと思います。アンダーソンのこれからの人生に幸多かれ

P.S.
Youtubeでこんな動画がありました。私も初見の、ニック・アンダーソンの挙式の様子です。



また、最近アンダーソンが受けたインタビューを貼っておきますのでこちらもどうぞ。FT4本外しの件について「It does not bother me. When you give your best and do your best – that’s all you can ask for.」とサバサバと語っているのが印象的でした。記事下のコメント欄に、なんとアンダーソンの元エージェントのコメントが載ってるのも注目です。

http://www.classicathletes.com/catching-up-with-nick-anderson/

※参考文献

ウィキペディア日本版

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